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<弁理士コラム>進歩性が否定される方向に働く要素としての設計変更等
拒絶理由通知でよく目にする「〇〇を△△とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得るものである。」という審査官の判断について検討してみました。
審査基準には、「請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、設計変更等により(※)、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。 」とあります。
ここで、設計変更等は審査基準で次にように定義されています。
(i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択
(ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化
(iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換
(iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用
これらをまとめると、進歩性が否定される方向に働く要素となるためには、
(1-1)設計変更等により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得る必要がある、又は、
(1-2)主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆がある必要がある
(2) 上記(1-1)及び(1-2)における設計変更等は一定の課題を解決するためのものでなければならない
ことが分かります。
以上より、設計変更等を理由に進歩性が否定されているのであれば、主引用発明から設計変更等のきっかけとなる課題(一定の課題)が認識できるはずなのです。
言い換えれば、仮にそのような課題について主引用発明から認識できないのであれば、それは主引用発明に基づいた設計変更等に該当しないと主張できる可能性があるのです。そして、進歩性が否定された請求項に係る発明の課題が新規であればそのような主張が更にしやすくなるのではないでしょうか。一方で、主引用発明から課題を認識できなかったとしても、課題がありふれたものである場合にはそのような主張が難しくなるでしょう。
審査官に「〇〇を△△とするかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得るものである。」と言われてしまうと思わず納得しそうになることもあるかと思いますが、そこは一度冷静になって引用文献を読み込む必要があります。もしかしたら、本願発明に引き連られた審査官が引用発明からは想定し得ない課題を勝手に設定していることがあるかもしれません。
※:原文を一部変更しています。
弁理士 中村一樹