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<弁理士コラム>権利回復の救済措置があった場合の第三者の保護について
2023年4月1日から期限徒過により消滅した特許権等についての回復要件が「正当な理由があること」から「故意によるものではないこと」に緩和されました(弊所コラムもご参照ください。)
これにより、出願人や権利者は、回復手数料の納付が必要ですが、手続期間を徒過してしまったことにより消滅した権利を回復できる機会が増えました。
権利を回復できる手続の中には、(1)出願審査の請求、(2)特許料(第4年目以降)の追納による特許権の回復があります。
本来、権利者によってこれらの手続がされなかったということは、出願されていた特許出願が将来的に特許権として成立しないこと((1)の場合)や、存続していた特許権が消滅すること((2)の場合)を意味します。したがって、出願人や権利者以外の第三者は、権利が消滅したとき、特許出願や特許権に係る発明について、自由に実施できると判断できます。これにより、権利行使をされることなく、新商品を開発するきっかけを得られることから、第三者にとっては、権利消滅のタイミングを知ることが非常に大事です。
権利回復の救済措置があった場合は、自由に実施できると判断したはずの発明に係る特許出願が特許権として成立したり、消滅した特許権が復活したりする可能性があります。このような回復した特許権によって、第三者が権利行使されるおそれがあるため、通常の手続期間が経過した場合でも、第三者は発明を自由に実施できない場合があるといえます。
ただし、特許法では、権利回復の救済措置があった場合でも一定の条件を満たす場合には、出願人や権利者以外の第三者が法的に保護される規定が設けられています。しかし、適切なタイミングで新商品の開発に着手するためには、一定の条件を満たすように第三者が予め備えておく必要があります。
出願審査の請求の場合に対する第三者の保護としては、特許法第48条の3第8項において、審査請求期間を徒過して取り下げられたとみなされた、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、(a)一定期間中、善意に日本国内において当該特許出願に係る発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者については、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する旨が規定されています。(b)この(a)の一定期間とは、特許出願の取下げに係る公示後、出願審査の請求に係る公示前とされています。すなわち、「出願審査の請求に係る公示後」に、実施又は準備を開始した場合は、通常実施権を有することができないため、第三者は、審査請求期間が過ぎた特許出願を実施しようとする場合であっても、出願審査の請求に係る公示がされている特許出願であるか否かを確認する必要があります。例えば、J-PlatPatで出願経過を確認したり、特許庁のウェブサイトで公開されている「出願審査の請求の回復申請状況表」を確認したりすることをお勧めします。
特許料(第4年目以降)の追納による特許権の回復に対する第三者の保護としては、特許法第112条の3において、追納期間の経過後から、特許権の回復の登録までの間における一定の行為については、特許権の効力が及ばないこととされています。これに対して、追納期間が経過した後であっても、特許権の回復の登録があった場合は、特許権の効力が及ぶことになります。そのため、第三者は、特許料(第4年目以降)の追納期間が経過した後すぐの実施に対しては権利行使されませんが、追納による回復があった場合は、その後の第三者の行為については、権利行使の対象になるため、注意が必要です。
審査請求の場合と異なり、通常実施権を得られませんので、追納期間の経過後でも権利が回復する可能性があることを考慮して、第三者は、特許権に係る発明を実施するかどうかを慎重に判断する必要があります。
特許料の追納納間が6ヶ月(特許法112条1項)で、特許権者が回復を求められる期間が追納期間の経過後最大1年(特許法施行規則第69条の2第1項)です。したがいまして、第三者は、特許料納付の満了日が経過している特許権であっても、最大1年6ヶ月の間は、特許権が復活すること見込んで、特許権に係る発明を製造したり販売したりすることは控えめにした方が安全であるといえます。
弁理士 三苫貴織