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<弁理士コラム>新規事項追加についての雑感
特許に関して、弁理士である我々の主たる業務は進歩性に関する事項が多い。そして、補正時の新規事項追加や記載不備が続くといった印象だ。
その補正時の新規事項追加について、気になった判決があったので簡単に感想を述べておく。
「保温シート」事件である(令和元年(行ケ)第10165号/判決文)。判決日が令和2年11月5日なので、半年くらい前である。
拒絶審決に対する審決取消訴訟で、出願時には「通気性が確保された不織布又は織布からなるカバー体」と請求項1に記載されていたものが、「通気性及び通水性が確保され且つ透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体」と補正されたものである。下線部が問題となった補正箇所である。拒絶審決では、カバー体が「透光性を有する」ことは、本件当初明細書等に明示的に記載されておらず自明な事項ではないとして、新規事項の追加と判断された。
確かに、本件当初明細書を参酌すると、カバー体について「透光性」に関する事項は一切記載されていない。したがって、審決の判断も頷けなくもない。むしろ、リスクを冒して大胆な補正をしたということで感心するくらいである。
ところが、判決では、織布又は不織布について遮光性能を付与するための特別な方法が採られていなければ、織布又は不織布は透光性を有するということが、本件出願時における織布又は不織布の透光性に関する技術常識であったとして、新規事項の追加にはあたらないと判断された。(つまり審決は取り消された。)
この判決を読んだ当初、「けっこう広いところまで補正を認めるんだ。」と少し驚いた。しかし、ソルダーレジスト大合議判決(平成18年(行ケ)第10563号/判決の要旨)に沿った判決であり、まあ理解できる。
この判決の面白いのはここからだ。
本件出願の審査過程で提出された意見書で、透光性を有していることから、カバー体を透過して断熱面に照射された光が、断熱材に含まれた二酸化チタンを光触媒として作用させ、十分な消臭効果や臭いの発生を効率的に防止する効果が発生する旨の主張をしていた。判決では、意見書のこの主張に対して、このような作用効果は、当業者であっても本件明細書等から理解することはないとした。そして、本件カバー体について「透光性を有する」という事項が追加されたからといって、本願発明に上記のような技術的意義又は作用・効果が新たに導入されるものではないとしている。
「あれっ」と思った。補正で「透光性を有する」と追加して、その作用効果を述べて進歩性を主張するのがよくあるやり方である。それなのに、補正は認めるけどその作用効果は当業者でも理解することはないからその作用効果は進歩性の判断では参酌できないよ、といっているようにも解釈できる。「じゃあ、補正しても意味ないじゃん」というのが通常の弁理士の考えだ(と思う)。
案の定、特許庁に差し戻された後に特許審決が出されており、そこでは「透光性を有する」ことの技術的意義や作用効果については何ら検討されていない。そりゃそうだろう。どう扱ったら良いか分からないから、これを避けた判断をしたのだろう。
補正は認める、でもその作用効果は参酌できない、という事案の扱いについて、今後の動向が興味深い。
やはり、作用効果は明細書に記載しておいた方が良いと改めて思った次第である。
弁理士 藤田考晴