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<弁理士コラム>日本と外国とで、権利化されやすさに違いはあるか〜特許庁報告書の統計から分かること その2

 特許庁から報告されている統計集から、各国の特許行政を垣間見ることができます。今回は、いわゆる五大庁(日米欧中韓)における、日本における他国からの出願の権利の取得の状況や他国における日本からの出願の権利取得の状況について調べてみました。

(1)他国からの案件の特許の取得しやすさは国によって違うのか
 前回の筆者担当コラムで、2019年以降は、五大庁の中では米国での特許査定率が最も高く(約78%:2021年)、日本の特許査定率約75%(2021年)を上回っていたことを書きました。
 その一方で、筆者が担当した米国案件の特許査定率が8割近い、という実感はあまりありません(拒絶理由通知の発行回数が日本より多いためかもしれませんが)。このため、米国特許商標庁(USPTO)の審査官は、米国人が出願した案件を優先して特許にしているために特許査定率が高くなっているのでは?との疑問が浮かびました。その答えも特許行政年次報告書2023年版に載っていました。

 上記グラフから、2022年に日本で特許となった案件20.1万件のうち、15.5万件(77%)が日本からの出願であったことが分かります。これに対し、米国で特許となった32.7万件のうち、米国内からの出願は47%と、なんと半数に満たないことが分かりました。今回調べた中ではこれが個人的に最も驚いた数値でした。この値は、上で書いた「米国特許商標庁の審査官は、米国人が出願した案件を優先して特許にしているのではないか」という疑問の答えが「否」であったことを示しています。同様に、欧州特許庁(EPO)の審査においても、欧州で特許となった8.2万件のうち、欧州域内の出願人による特許は45%と、こちらも半数に達していませんでした。なお、中国は国内出願人による特許が87%と非常に高く、韓国は73%と日本と同程度であることが分かりました。
 筆者は弊所にて、1つの案件(発明)の各国への移行案件に対する拒絶理由通知への対応業務を12年近く担当しています。その中で、特に米国案件、欧州案件に対して発行された拒絶理由通知に対しての応答は、一筋縄ではいかないと常々感じています。現実問題として、同じ発明の日本案件は順調に権利化できたものの、米国/欧州で手こずっている案件もいくつか生じています。拒絶理由のうち、明確性欠如の指摘については、言語の違いに起因する面や各国プラクティスの違い(どのような表現であれば許容されるか)によるところが大きいと考えています。その一方で、各国の審査では、上述のように必ずしも自国民の案件を優先しているという事情は存在しない(はず)であるという状況に鑑みると、米国案件、欧州案件の権利化に向けては、最初の明細書作成の段階でもっとできることがあるはず(具体的に言語化することは簡単ではないですが・・・)、と改めて気持ちを引き締めている次第です。

(2)特許以外ではどうか
 ここまでは特許出願に関して調べてきました。意匠や商標ではどうでしょうか。
 意匠については、2021年の登録件数について下記データを見つけました。「自国居住者の登録件数」の欄のカッコ内の数値は、全体の登録件数に対する自国居住者による出願が登録になっている割合を示しています。

 意匠についても、米国、欧州では自国からの案件は半数前後であるのに対し、日本では7割強、中国、韓国は9割以上が自国からの案件でした。意匠については、各国のプラクティスの違いが特許の各国プラクティスの違いよりもかなり大きいと感じています。意匠においても国際出願(ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願)制度が日本でも浸透しつつあり、種々ルールのハーモナイズが少しずつ進められています。これにより、各国プラクティスの違いも徐々に小さくなっていき、他国への出願をチャレンジする機会も増えてくるのではないかと予想しています。
 商標については、「登録件数」ではなく「出願区分数」でのデータとなります(2021年:登録件数を公表していない国があるため)。

 五大庁での商標登録件数は年々増加傾向にあるところ、中国における出願区分数の多さには圧倒されます。商標もまた、各国で許容可能な指定商品・指定役務の記載ぶりが、国ごとに大きく異なっていることから、各国代理人との連携のもとで出願戦略を練ったうえで手続を進めていくことが、効率の良い権利取得につながると実感しています。

 外国での知的財産権の権利取得は今後も引き続き重要であると考えています。オリーブ国際特許事務所では、各国代理人の協力のもと、各国での動向を確認しつつ、お客様の事情に即したご提案をしていけるよう日々努めております。お気軽にご相談ください。

*各図・数値の出典は、いずれも、「特許行政年次報告書2023年版

関連ページ:「日本での出願の審査の早さは?特許になりやすい?〜特許庁報告書の統計から分かること

弁理士 河合 利恵

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