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<弁理士コラム>欧州単一特許制度開始から1年が経ちました

2023年6月1日に、「単一効特許」(Unitary Patent: UP)制度と「統一特許裁判所」(Unified Patent Court: UPC) 制度とがパッケージとなった「欧州単一特許制度」の運用が始まり、1年が経過しました。「単一効特許」は、EPOに出願をして審査を受けるステップは従来型と同じですが、許可予告の発行後、登録にあたって「単一効特許」を選択することで、その段階でこの制度に参加している国全部に対して単一の効力を有する特許権が発生する制度です。

単一効特許制度の利用状況については、EPOのウェブサイトに、単一効特許に関するダッシュボードが設けられており、申請件数や技術分野、筆頭権利者の居住国といった各種統計の最新情報を確認することができます。

(出典:単一効特許に関するダッシュボード)

 本稿執筆時点(2024/6/16)では、制度開始時点から通算で2万8千件を超える単一効特許が登録されており、平均して1ヶ月に約2千件のペースで登録が進んでいます。これは同期間にEPOで登録となった特許の件数のうちで約19%に相当する数となっています。特許登録の全件数に対する単一効特許の割合は、2023年内では17.5%だったのに対し、2024年に入ってからは24.2%となっていることから、登録の際に、従来型の特許(希望する国を選択して権利化)ではなく、参加国全域に対して効力を有する単一効特許を選択する割合が次第に高くなっていることが分かります。なお、登録となった単一効特許の案件数のうち、日本の権利者が占める割合は3.8%となっています。欧州出願件数に対する日本の出願人による件数の割合は約11%(2023年度)であることから、現段階で日本の出願人は、特許登録の際に単一効特許を選択するのに慎重になっているようです。

単一効特許を選択した案件について技術分野の観点から見てみると、医療技術分野の案件が全体の12.0%でトップを占め、次いで土木工学分野の案件が5.7%、計測分野の案件が5.4%、と続いています。これに対し、2023年の欧州特許出願時における出願件数が多い技術分野は、多い順に、デジタルコミュニケーション、医療技術、コンピュータテクノロジーとなっています。このことから、単一効特許を積極的に利用したいと考えている分野と、様子見をしている分野とがあることが推測されます。様子見の状況を生んでいる理由の一つは、単一効特許制度とともに始まった「統一特許裁判所」制度のもとでどのような判決が出されるか(統一特許裁判所の判断基準が、各国裁判所の基準と比べてどうなっていくのか)、というのを待つべく、統一特許裁判所の管轄外とするオプトアウトを行ったためと考えられます。

実際に、統一特許裁判所制度の開始後、第一審(地方部裁判所)では欧州プラクティスである課題解決型アプローチに沿って進歩性の判断が行われていたものの、控訴裁判所においては、課題解決型アプローチを厳格には適用せず、進歩性の判断が第一審と控訴審とで異なるものとなった(第一審では進歩性は否定されず、控訴審では否定された)、という判決(UPC CoA 335/2023)が出されています。

特許出願の審査はこれまでと変わらずEPOにおいて行われることから、進歩性の判断も引き続き、課題解決型アプローチが適用される可能性が高いと考えます。その審査によって特許となった後で、異なる判断基準によって特許が無効とされる可能性があるという例が上記判決によって示されたといえます。統一特許裁判所での判決についてもウォッチし、傾向を確認していく必要があります。

オリーブ国際特許事務所では、多くの欧州代理人とともに仕事を行っています。欧州単一特許制度に関して質問等がありましたらお気軽にお問い合わせください。

参考:単一効特許に関するダッシュボードのURL:
https://www.epo.org/en/about-us/statistics/statistics-centre#/unitary-patent
2023年度の欧州特許の各種統計(Patent Index 2023)
https://www.epo.org/en/about-us/statistics/patent-index-2023
※欧州主要国のうち、イギリス、スペインは単一効特許制度を受け入れていません。このため、これらの国で特許を取得するためには従来型の特許を取得する必要がある点に要注意です。

弁理士 河合 利恵

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