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<弁理士コラム>特許用語の翻訳について
1.特許用語の翻訳について
特許用語は、各言語の技術的・法律的背景と深く結びついているため、単純な直訳では適切に意味が伝わらない場合があります。例えば、ドイツ語には”Formschlüssig”という用語があります。これは、鍵と鍵穴の関係のように、部品同士が形状的な適合によって結合することを意味し、日本語では「嵌合(かんごう)」に近い概念です。
一方、特許実務においては、英語以外の言語(例えばドイツ語)で作成された出願書類を日本語に翻訳する際に、英語を仲介語として用いることが一般的です。この場合、”Formschlüssig”という用語は”positive lock”という用語に英訳されることがありますが、これを日本語に直訳すると「積極的ロック」となり、一般的な技術用語としては馴染みがありません。このような訳語を用いると、審査官に不明確と判断されたり意味を誤って解釈されたりするリスクがあるため、注意が必要です。
このように、英語以外の言語から英語を介して日本語に翻訳する場合、直訳によって意味のズレや誤解が生じる可能性があることを認識しておくことが重要です。
2.実務での対策
上記のように、原語から日本語への翻訳過程で、原語のニュアンスを正確に表現できない用語が存在します。このような問題を回避するためには、以下のような対策が有効です:
・翻訳文中に原語を併記する。
・具体例や別の表現を明細書に盛り込む。
・現地代理人とのやり取りの中で、用語のニュアンスの違いに注意を払う。
また、このような言語間のニュアンスの違いによる解釈の相違は、日本語から英語以外の現地語に翻訳する場合にも生じ得ます。つまり、日本語に対応する英語や現地語の用語が存在しないケースも考慮しておく必要があります。このような問題に備えるため、以下のような追加の対策も有効です:
・明細書作成時に、難解な技術用語を補足的な表現で記載する。
・具体例や図面を充実させ、用語の意味がより明確に伝わるようにする。
これらの対策を講じておくことで、審査過程における解釈の相違による拒絶を抑制し、補正による対応も容易になります。
3.まとめ
以上の通り、特許用語の翻訳においては、各言語間のニュアンスの違いにより、解釈の相違が生じる可能性があります。これを防ぐためには、明細書作成の段階から外国出願における翻訳までを見据えた対応が重要です。難解と思われる特許用語については、明細書作成時に弁理士と相談しながら慎重に記載することをお勧めします。
弁理士 吉田 文宣